取替え子とうそ

 ところでれいきというのはぼくの呼び名だった。その夏、真名はある朝、穴を掘る必要があるんだけど手伝ってくれない? といった。そこでユウイチはもういないのでぼくが手伝う羽目になったのだけれど、それで穴を掘ってどうしようというんだ、と聞くと、真名は落とし穴ではないとだけしかいわず、むしろその穴はよほど大きなものでなければならないらしく、しかも、その立地は、静かで、美しくて、どこか懐かしいような場所でなければならないのだという。

 何かを埋めるのかもしれない、とは思った。

 しばらくスコップをかついだ格好で二人で市内をうろついている日が続くと、あるときから誰かが尾行しているような気がしてきた。ねじのゆるい真名とぼんやりとしたぼくのことだから確かではないのだが、注意してみると、数日して、やはり誰かが少なくとも関心をもっているのは本当みたいだということがわかった。というのも、ある朝学校の誰も使っていない掲示板にぼくと真名の写真が貼ってあったからだ。どうでもいいことではあった。

 ちょうど同じころから、ユウイチは誰かを妊娠させたのではないかという推測がながれはじめた。しかしこれは変なうわさだった。相手が皆目見当がつかない。それにユウイチのほうが消える理由もよくわからない。そう考えるのは変なのかもしれないが、変な気がした。

 駅が昔あった、山すその湖の近くの廃墟、そこにはプラットホームだけが残っているのだが、そこはいい場所なのだが、大きな穴を掘るのに適当な場所がないのでぼくと真名は困っていた。それでプラットホームにあがって、あたりを見回していると、いつのまにか、どこからあらわれたのか、白黒まだらの猫があらわれて、めんどくさそうにこちらをみた。

 なんなんだ、失礼な。

 とくに意味もない間抜けな沈黙がかなりつづいたとき、がさがさと音がして、誰かがやってきた。

 姿をあらわしたのは休みの日なのに制服の舘川楓だった。

 「……道に迷ってしまいました」

 現れたのに意味があったわけではなかったらしい。