洪水の前に

 その夜、鯨の夢を見た。

 朝になって、ぼんやりとした予感に襲われながら、支度を済ませて、学校にいこうと、ドアを開けると、まだ、ドアを開ける前から、匂いだけはしていたのだけれど、はじめに目に入ったのは白い可憐なかがやきで、ついで、雪が降ったのかと思った。

 道路も、家屋も、歩道も、坂も、町も、信号も、庭も、畑も、すべてが、まるで、一夜にして黴におおわれたかのように、完璧なまでに、白い花によって埋め尽くされていた。

 風が吹き、さらさらと満開の花が鳴った。

 呆気にとられて、ぼくは爆笑した。