断片 これもボツ案

 魂の真夜中の作業

 ぼくが神さまのことを知らないのと同じように、神さまもぼくのことを知らないのに違いない。瞑目するたびに、そのひかりと闇の切り替わる刹那の間だけ、ぼくは死んでいるのだと想像してしまう。あの自分とこの自分がばらばらに砕かれていって、気持ち悪くて仕方がない。鏡のイメージを思い浮かべるたびに、生理的な不快感で吐きそうになる。割れるんじゃないかという不快な切迫感と恐怖感に襲われる。
 太陽が毎日没落して闇が支配するたびに、ぼくは目を醒まし街へと出て行く。影から生まれ、影の中に溶けていく暗黒の眷属を気取ってでもいるかのように。あるいはぼくは、誰かの見ている夜の夢なのかもしれない。ぼくのダブルはうららかな日差しの中を、微笑を浮かべて、だれか美しい少女に片恋でもしているのだろうか? ああ、そうであってほしいとどんなに願っていることか!
 人影のない立体交差は巨大ながらんとした広場で、そこには幽霊のような信号の明滅がいつはてるともなく続く。音のないリズムを打ちながら。ぼくが喧騒の音のない痕跡だけを残した廃墟を歩くと、決まって一匹の黒猫がついてくる。どこから現れるのか、本当に猫なのかもぼくにはわからない。
 夜の街には言葉が空気の中に凝固して散乱している。たくさんの言葉が、いのちからも音からも切り離されて、遺跡のような沈黙をたたえて、いたるところにばらまかれている。 
 かんと、言葉という言葉を蹴り飛ばしたり踏みつけたりしながらぼくは街を不気味な信号の明滅を背にして、黒猫を引き連れて突っ切っていく。