経済論戦は甦る  ISBN:4492393862


日経BP企画
経済論争の正しい愉しみ方
「今日の日本の経済学者は、1930年代の大恐慌の時と同じくらい、経済学の進路にとって重要な状況に立たされている」。著者である竹森俊平・慶応義塾大学経済学部教授は、構造改革の是非に揺れ動く我が国にあって、マクロ経済学的視点に基づく意思決定こそが国の命運を左右すると論じる。

とはいえ、理論と現実の狭間で意見を180度転換させる経済学者に対しては風当たりも強い。大恐慌の際、「財政金融政策を講じなければ経済は『デフレ・スパイラル』に陥って崩壊する」と説いたのは米国の経済学者アービング・フィッシャーであった。一方、世に言う「フィッシャー効果」とは「インフレ対策が無効になる可能性を示唆したもの」である。著者はこれを「矛盾」とは解さず、常に新たな難問に対峙する経済学者の宿命であり、真摯な姿勢であると位置づける。

フィッシャー理論の対極には、オーストリアの経済学者シュンペーターが説いた「創造的破壊」、すなわち不況の破壊力で企業、雇用、資産の非効率なものを一掃してしまえという「清算主義」がある。著者は、小泉純一郎内閣による構造改革の思想をそれに重ね合わせることで、マクロ経済の視点から改革の落とし穴を検証し日本経済の行く末に警鐘を鳴らす。

とても面白かったです。「痛みに耐える改革」というすでに色あせたスローガンじゃだめな理由。

経済で、不況を徹底化させることで衰退産業を退場させて活力ある民間起業に経済再生をはかる、という「清算主義」と、不況やデフレは経済の再生に役立たない、だからすみやかに終了させるべきだというケインズ、フィッシャー的な立場が対比され、後者が支持される。

実際、ぼくも、不況の徹底化がなぜ、新規産業の参入を促すのかその理路が分からなかったので、こういうふうに解説されると納得できました。(もちろん、促さない、ということに)