追記

http://d.hatena.ne.jp/kokorosha/20040514

凡庸であること自体は価値的に低く評価されるようなことではないし、王道のエンタテイメントはつねに尊敬に値するわけです。そして、ココロ社さんが、娘。が好きであることと、ある種文学好きのサークルで好まれる作品との間にギャップを感じるのは、決して、単に凡庸だと感じているからではなくて、対立すると感じているから、価値的な判断があるからです。単に凡庸だと感じているだけなら、それを好むことと、別の自分がより質の高いものと考えているものを好むことの間に、ギャップを感じたりはしない。単に、物好きだなと思うだけです。積極的に、変だ、不思議だ、あるいは、間違ったことだ、という感じを抱くのは、質的に凡庸だと感じているからだけならありえないことで、価値的に、思想的に、対立していると感じるからでしょう。

だから、凡庸であることを(もっとも蓮實とかの意味では、単につまらないだけでなく、価値的に否定的な意味もあるのかもしれないけど。いや、よくわからないけど。)強調されても違和感を感じざるを得ないわけです。仮に、娘。にとるべきものがまったくないとしても、それを好きな人が、もっとすばらしいものを平行して好きなことは、何ら矛盾を感じさせない。だから、あくまでも、凡庸さという質的な優秀さが問題なのではなく、方向性や思想的、批評的立場の対立性が問題でなければならない。そうでなくては、ひとは矛盾を感じないからです。

娘。は娯楽においてひとを楽しませることに成功しているし、ことさらに、ぼくが間違ってると思うような、表現の次元でのずるや抑圧的行為(子供や動物に頼るとか、要は人間の上等ではない部分に訴える仕方で人気を得ること)をしているわけではないと思う。そのかぎりで、歌詞や音楽が、ありがちであったとしても、そのことは別にどうでもいいことだと思う。つまり、音楽的に、文学的に凡庸であることは、一定の留保をつけつつ同意はできるけれども、(というのは、ある時代のある国の芸能界という範囲において事実としてぬきんでたということは、当然、少なくとも魅力において傑出していることは明らかだから。それが、普遍的な観点からどうかとか、文学的、音楽的な評価軸からどうか、というのは、じつのところ、全然まったく別の話。まあ、といってもぼくは魅力的だと思うし、好きな曲もある。ただ、それが普遍的な価値があるとか、後世すごいといわれるか、ということには、判断つかない、ということ。)それは価値的に否定的な意味で、「ハイブロウな」ものと対立するような、よくない質をもっていることとは意味しないと思う。

要は、娘。をことさらに理論的に無理をして、思想的、文学的な理由ですごいということに意味があるとは思えない。と、同時に、そうした思想的傑出性、意義の不在をもって価値なしというのもばかげている。魅力はあるかないか、端的な事実性なのだから。文学でもそういうことをするひとがいるけど、ばかげた行為だと思う。文芸理論的にすごい「から」すごい作品などありはしない。娘。がひとを魅了する理由を知りたいならもっと技術的、情勢論的な分析が有効だろうし、個別の人が好きな理由となれば、それは千差万別でありえるだろうし、本人が自称する理由が事実だとは限らない。その意味で、好きな理由を説明できないというのはただしい。実際、理由があって好きなら、その人は好きというより「支持」あるいは「評価」しているのであって、そういう「あえて理由があって好き」というのは、完全に倒錯しているし、そういう意味でのすきというのを娘。のファンに期待したのであれば、そこには「そういうわざとらしい理由でもなければ好きなはずはない」というのがあり、それは結局、「実はあなたたちは好きじゃないんでしょう。なんらかの理由で好きだと思い込もうとしているだけなんじゃないんですか」ということにもつながりかねないと思う。が、そんなことはないと思う。

だから、ココロ社さんが娘。が文学的、音楽的にすぐれているかどうか、ということに議論をもっていこうとしているのは、意味がない方向だと思う。全然そんなことは論点じゃないと思う。単に凡庸かどうかを議論したって意味がない。そうじゃなくて、対立する質があるかどうか、が問題で、そして、何を持って、その対立する質だとみなしているか、ということです。

要するに依然、ぼくに分からないのは、仮に娘。の歌詞が凡庸だとして、そのことが、なぜ金井やその他の繊細な言語意識をもつと想定されている作者を好むことと対立するように思えるのか、ということが分からない。

(まあ、それ以前に歌詞を文学として評価する、というのは本当に意味がない。たとえば意味不明の洋楽の歌詞だってひとはこのんで聞くのだし、むかつくような思想が表明されていようと、うつくしい楽曲はある。ビートルズの歌詞とかストーンズの歌詞とかあほみたいに単純で意味不明だったりするし、逆に、なんにかぶれたのか、そのときはまってる思想を荒削りにうたっちゃうような歌手もロックにはままある。しかしそのことで、それらの曲がかならずしも駄目な曲になるわけではない)

リンク。
続けて同じ人にあれだけども、これも同感でした。
http://d.hatena.ne.jp/crossage/20040514#1084470346