法外の正義と制度としての正義

id:mojimojiさんやおおやさんのところの議論はまさしくデリダあたりの議論なのだろうし、アクチュアルでもあるんだろうからたとえばid:hazumaさんとかid:shinichiroinabaさんとかが介入すると面白いのかなあと無責任に思ったりするわけだけども、一方でこれは正義を社会的関係性によって産出される対象として考えると社会学の領域となるわけでid:contractioさんあたりも関係してくるのかなと、まあここまでは単なる連想。

本来の法廷の問題となるともう法廷と名乗ることの波及効果というかコミットメントはどこまで及ぶか、ということにつきるんだろうと思う。手続き的な連続性において法廷でないものが法的権威を要求するのは問題外だし(とはいっても独立宣言や革命とかいった法創設の場面では話が違うんだろうけど、これは遡及的なかなり強い同意による正当化を多分要求するはず)、そこまでは擁護側も別に認めてはいない。だから、そこではあの法廷がそうしたものを要求したかどうか、という事実認定の問いが重要になると思う。ただ、法廷と公的に名乗るというだけで、たとえ法執行にかかわる法的効力がなく、そうした効力を主張していなくても、法にのっとった判決であると主張することは、法秩序に関して侵犯的な効果をもつといえるか、というのは議論になりそうなところ。ぼくは事実認定に関しては詳しく関知していないのだけれど、法廷であると名乗ること、法に従って、これが法が求めているはずの判決であると主張することは、実定的な法的権威に対立し、挑戦する対抗的な法的権威を設立することにはならないのだから、法秩序の一貫性と自己完結性、あくまで手続き的に正当化されるべきことが結果としてもたらす法執行の安定性が、正義の現実的保証のためには必要であるという議論と矛盾しないと思う。すなわち、私設の擬似法廷が、厳密に法を模擬し、実際の判決というか法関係と異なるものを、これが本来法が求めているはずの、法に正しく従えばもたらされるはずの判決であると主張することは、それだけでは、現実の法のもつべき権威と強制力、そこからもたらされる法的安定性への挑戦や侵犯にはならないと考える。ここでの条件は、あくまでも、その「判決」が、判決ではなく、判決が正しく行われていたとしたらそうであったとわれわれが考えるものである、という資格を明確にすることで、それ自体として何ら法的ステータスをもつものではないということが明確なことだろう。つまり、そのありうべき判決と、この模擬法廷の「判決」は、「主張内容」において同一だが、形式および法的ステータスにおいて異なる、という立場。だから、ぼくには、おおやさんの議論はよくわかるけれども、そこで懸念される危険を、法廷と名乗っているということだけから読み込むのは読み込みすぎなんじゃないか、と思わずにはいられない。ただ、実際に、判決に、実効的な法的権威を要求している、というような事実があるのかもしれない。そうであれば、それは違う、というのはよくわかる。

で、法外の正義については、しかし社会学的には、何が正義であるかというのは、一定の記述可能な規則によって社会的に産出される判断である、という立場もあるわけで、ここでは客観的な記述的視点と、主観的な実践者の視点の乖離があるんだろう。正義がどのように決定されるか、そしてそういうものでしかない、という認識を有している人物であっても、その人物が、正義が何であるかを決定すべき立場に陥れば、その認識は何ら助けにはならないわけで、仮に正義の社会的決定ルールを知っているから、それにしたがって判断したとしたら、これはまさにその知識ゆえに、その決定ルールからは逸脱していることになる。実践倫理的な判断のフェーズにおいては、どうしたって、正義は、超越的なものとしてあらわれるほかない。正義を実在的な共同体規範とみなすという決断でさえ、その実在的規範を、正義を体現するものとして、二重化して体験することになるだろう。そのかぎりでは、超越的な法外の正義の観念は排除できない。つうか、法的判断には公序良俗なるものも関係するし、法が正義に関する期待と一致していることは、法の言外の大前提であること、法的判断において法規定にかんする相互参照が一義的に判決を決定(いわば計算)できないとき裁判官は正義に関する信念に従って(規定の相互参照の観点だけからいえば等しく正当な判決のうちひとつを)判断するということ等は、やはり法が前提にし期待していることだと思う。その意味では、法外の正義は法によってインプリシットに予定されているはず。

参照。
http://d.hatena.ne.jp/using_pleasure/20050206#1107633259
あとこれ。読んでないけど。

http://thought.ne.jp/luhmann/baba/gj/gj00.html