断片

ほかで使おうと思ったのだけれど結局使わなかったので。
なんとなく西尾維新風。

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一千の刃、一閃の階差、破裂は峻烈、明滅で永訣。それが至純の命題。

渚零が巨岩の陰に飛び込みおおせたナノセコンドの誤差で銀の弾丸の雨が彼女の残像を食らい尽くした。金の弾丸は魂を食らい、銀の弾丸は肉を砕き、銅の弾丸は心をひしぐ。かわされたことを察して<普遍の亡者>は憑かれたように大口を開けておぞましく哄笑する。純粋な破壊の歓喜と、笛吹きの誘惑の倍音
「求めるのは何だ? <意志あるもの>!」
「現世利益さ、化け物」
零は呟くとコルトに六発の暗黒色の弾を装填する。不意に気配が変わり、風が流れ始めた。<亡者>はもう一度哄笑すると、九つの触手をひろげ、その触手の先からいっせいに銀灰の糸を放った。制約と局限の理は妖惑の陰をともなって戦慄すべきネットワークへと拡大し、唾棄すべき切断の母性は抱擁の意志を明らかにする。零は脚力だけで刹那に後方へと飛び退ると、そのまま銀糸の死の網の目の隙間から亡者の目に銃口を向けて構えた。普遍の眼のうちには轢断すべき意志なきものの意志が潜む。制約と限定のロジックは夢に似た確実さでゆっくりと近づき、砕かれた岩の破片が零の頬をかすめ、別の欠片で彼女の髪を無造作に留めていた布切れが飛んだ。拘束を解かれた赤毛は太陽のように広がり、一瞬、すべてを支配する。零はその髪の氾濫のなかで<亡者>の姿から眼を離すことなく、にやりと笑うと、立て続けに引き金を引いた。その軌跡は時間の螺旋のように確実、音楽よりも明晰、憂鬱と相い似た絶対、切り裂かれたネットワークに振り向きもせず、普遍の亡者は魅入られたようにその<偶奇のモナド>との逢引を待ちきれない。
絶対の交錯。
飛び退ったせいで後ろから地面にたたきつけられた零は痛そうに漸く立ち上がると、「明滅で永訣、か。やれやれ」愚痴りながら視線を戻す。風になびいてうっとうしい腰までの髪を払う。砂と岩の広漠とした荒地のなかに一箇所、よく見なければわからない奇妙な理(ことわり)のゆがんだ場所がある。砂地のなかにまさに消えようとしている小さな黒十字の空間の亀裂、風車のように、もう二三度くるくるとまわって、消えた。もはや痕跡はない。

「あーあ、ったく、ここ何処だよ。今日中に帰れんのか?」
渚零は、いま始めて、途方にくれた。