ロートレアモン伯爵 そして あるいは イジドール・デュカス コミューンにて

 老いたるわだつみよ、おお偉大なる独身者、あなたが、粘液質の王国の、壮麗なる孤独のなかを疾駆するとき、生まれながらの華麗さを、また捧げずにはいられないぼくの心からの讃美を、あなたが誇るのはとうぜんだ。至高の権力が恵みたもうたさまざまな性質のうちで、もっとも偉大なるもの、悠揚せまらざる壮大さをゆるやかに発散して、恍惚として身をゆすられ、おのが永遠の力をしずかに感じながら、あなたはくらい神秘のただなかで、高貴なる全表面にたぐいなき波浪をくりひろげる。

『マルドロールの歌』栗田勇

 すなわち、海はrock'n'rollする。テンペスト

 本当はエルマフロディットへの賛歌を全文引用したい。青柳瑞穂訳で。

 マルドロールはパリに跋扈する。コミューン前夜のパリを歩き回る誘惑者。自称するところの吸血鬼、神への挑戦者、人類の敵。この青年は神経症的なくらい顔つきで人目を避けて歩く。包囲された街。笑うことのできない男。眠りを恐れる海と数学の崇拝者。

 ミランダとコーディリアというテーマ。

 ライオスを殺すマルドロール?
 マルドロール対ツァラトゥストラ? 夏休み東映マンガ祭?

 なんだそりゃ。

 アーカイブがデータベースになるのは、キーによる検索が可能になったときである。ゆえに、過去の遺産を文脈から切り離して利用することだけでデータベースの比喩で語ることは危険だ。萌えとは検索キーなのであり、googleの検索語なのだから。リミックスはきわめて古いが、普遍的インデックス化は近年の出来事だ。少なくともそんな感じがする。ピタゴラスの夢想。万物の固有の数字。id number。

 したがって、マルドロールたらんと欲すればインデックスにこそ呪詛を向けるべきなのだろうか。だがラビリンスで迷うこと、ペテルスブルクの偶然の出会いを愛好することは、不利益でもあるのだが、利益など、と威勢良くいうにはブルジョワでありすぎる。

 検索キーとは固有名詞だ。固有名は、ひとのいうところでは、特殊なインスタンスだそうだ。スコープが限定されているとか、何とか。したがって、固有名を取り替えることは有効だろうか? 追跡可能性を破綻させるには、一対一対応を壊す必要がある。

 試み:固有名とそれにまつわる歴史を交換するマーケット。コテハン・エクスチェンジ。

 アーカイブは生きている。だから、クロウラーが必要だ。インデックス状態とアーカイブ状態の差異こそが生息の場。隠れる、見えるものとして。意味するものとして見えぬものとなり、意味されるものとして見えるものとなること。

 答え:よく分かりません。早口言葉ですか?
 問い:ある意味そうです。

ウィニコットは、「“主体が対象と関係する”その後に(対象が外的になるに従い)“主体は対象を破壊する”そして“対象は主体による破壊から生き残る”」(p.126)と述べている。つまり、赤ん坊が最初に対象と関係する場合、それは外的対象としては認識されていないのだが、それが外的対象、現実的対象だと認識され始めるにしたがって、赤ん坊は対象を破壊しようとする。しかし、いかに空想の中で対象を破壊しても、実際に対象が破壊されるわけではないので、対象は存在し続ける。破壊の後も対象が存在しているからこそ、それは真に現実的な対象となり、主体は生き残った対象を使用することができるようになる。

http://www.asahi-net.or.jp/~rt8s-ymtk/seisinbunseki/winikoto.html