「精神医学の神話」T.S.サズ

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 ところで、精神疾患が病気の一種であり、精神医学が医学の一分科である、ということは広く認められている。しかも、人びとは、自分が「病気にかかった」としばし思ったり、いったりするのに、「精神病にかかった」とは、まずめったに考えもしない。この理由は、きわめて簡単なことである。すなわち、人びとは、悲しんだり、有頂天になったり、劣等感におそわれたり、誇大的になったり、また、自殺や殺人を考えたりなどするが、決して、そんな時でも自分が精神病になったのではないか、とは感じないものである。だれか他人が、その疑いのあることをほのめかすわけである。だからこそ、身体疾患が必ず患者の同意に基づいて治療されているのに、精神病の場合には、本人の同意さえなしに、治療が行われているのである(今日、個人開業医の下に、精神分析的ないし、精神療法的援助を求めていく人達は、自分が「病気にかかって」いるとか、まして「精神病にかかって」いるとは考えてもいないし。むしろ、生活上の問題と考えて相談(councelling)にのってもらっているのである)。つまり、医学的診断というものは、本当の(genuine)病気の名前であるのに、精神医学的診断というものは、烙印(stigmatizing labels)でしかないのである。