フーコー「狂気と社会」

http://www.ne.jp/asahi/village/good/foucault.htm

 第一の仕事という点についていえば、現代でも、ある人を狂気と判断する第一の基準は、「仕事のできない人」ということにあります。フロイトがいみじくも言ったところによると、狂人(フロイトは主として神経症の人のことを言ったのですが)とは働くことも愛することもできない人である、とのことです。この「愛する」ことについては後でまた述べるつもりですが、ともかくこのフロイトの考えには深い歴史的真実があります。ヨーロッパの中世紀においては、狂人の存在は許容されていました。彼等はときに興奮したり、情緒不安定だったり、怠け者だったりしたわけですが、あちこち放浪することが許されていたのです。ところが、十七世紀頃から産業社会が形成されはじめ、このような人びとの存在は許されなくなりました。産業社会の要請に応じて、フランスとイギリスではほとんど同時に彼等を収容するための大きな施設がつくられました。そこに入れられたのは精神病者だけでなく、失業者や不具者や老人など、すべて働けない者が収容されたのです。