夢も見ずに眠っていた
地方都市というのははっきりとした境もないままにひろがる町の、そのまたはっきりとしない集まりだ。比較的大きな駅のある町がほかの町々と部落から中心とみなされてはいるけれども、ほとんどほかの町と大きさの違いなどありはしない。違いはただ駅がある、それだけだ。
駅のある町にならんでいるどの店よりも大きな建物、ジャスコや西友やツタヤが、何の法則性もない様子で自堕落にまだらに建てられるようになってからは、なおさら駅のある町は、ますますただの駅のある町に変わっていく。
「そのうち、駅だけになるんじゃないかな。駅と民宿だけ。あとは何にもない。それで、でっかい看板が立っていて、何キロも遠くにあるガレージみたいなつくりのでっかいモールに客を誘惑するんだ。だいたい、今日び、誰が電車でやってくるっていうんだ?」
「じゃあ、何でやってくるんだ?」
「バス!」
そんなこともない筈なのだけれど、自信ありげにユウイチが断言すると、堀の向こうに立っている城跡の神社で誰かが持参したらしいラジカセからベルベッド・アンダーグラウンドが始まるのが聞こえた。
退屈だった。春で、戦争が起きていて、試験が控えていて、何も思い出せない日が続いていた。滅びの日が過ぎたあとの、メモリアルのための公園のような世界で、あるいていると不意に下水から地底人が現れて、隣の誰かを連れて行ってしまうような、そんな漫画のような心象のほかには、とりたてて、心を騒がせるものはなかった。五パーセントだけ気が狂っているような気がしていた。物陰に、猫がいて、急にしゃべりだすんじゃないか、そんなことばかり気にして暮らしていた。
立ち上がると、堀の向こうで鳩が宿無しがまいているえさに集まっているのが見えた。白い鳩はいない。草の匂いがしたが、種類はわからない。あたりは草木だらけだが、どれひとつとして名前も何もわからないし、知りたいとも特に思わない。雑草はどこか倣岸に見えた。
「電車はいやだな。なんだか……電車は」
「バスだって死ぬ確率はいっしょだよ」
「なんだよ、それ」