花が殖えていく

 「もしもあたしが花に生まれ変わったらどうする?」

 いかれた女がいう。どうするもこうするも、そんなことはおきない。真名が気にかけているのは所詮だれが自分を見ているのかということだけだ。警戒警報のような、すでに覗いている何か恐ろしいものに魅入られてしまっているような表情で、いつも彼女は質問する。答えたことは一度もない。聞くだけだ。

 「摘むよ」

 屋上には誰かが置き去りにした白骨模型が転がっている。それを去年、ユウイチが学生服を着せてたたせ、逆さにして何か物干し竿のようなものに吊るしてあった。警告だよ、誰かが心配してやらないといけないんだ、と、そのとき何かに憤っていたらしいかれは、骸骨になにかのプラカードを持たせていたのだけど、もうそれは思い出せないし、文字はかすれて読めない。いまにこうなるぞとか、そういうことだったはずなのだけど。

 「れいきは?」

 「見なかったことにする」

 即答して、もういちど真名を見た。うちの学校はブレザーだ。

 風が吹き始めていた。風見鶏があるからわかる。ぼくはかれにミスター・ロジャーズという名前を付けていた。風見鶏にはなにか立派なところがある。すくなくともぼくはそう思う。

 からんと音がした。見回したがなんの音かはわからない。

 ついでにいっておくと、この音が何の音だったかは、結局わからないままなので気にしても仕方がない。それにどうせ忘れてしまうような出来事だ。

 足元を見ると、タイルとタイルの間に小さななにかの雑草の白い花が見えた。