海辺の家で ・ 立ち去るものとやってくるもの

 「……あとから考えてみると、その人影こそが、北朝鮮工作員だったのです。」

 うさんくさいモノローグをしとやかな口調で真名がベランダから海に向かって投げていた。だからぼくもどうでもいいことを言うことにした。だが、そんなにうまくでたらめなことはつかなかった。ぼくの頭のねじはいたって常識的にできていて、真名のようにゆるくはない。

 「……老いたる大洋よ、ぼくはお前に敬礼する!」

 だいたいユウイチが姿を消したからといって、それが報道されてるような事件と関係があるわけはないんだし、ひまだからと言って、他人を巻き込んでいい訳でもない。

 ドアが開いて、まるでテレビの中の出来事のような見かけと振る舞いの、いかにも出来合いのお医者様とその助手が現れた。ぼくは風邪をこじらせて寝込んでいた。

 「船はしばらくでないそうだよ」